精神疾患とは何だろうか

豊富な臨床経験から、誰もが罹りうる心の病の基礎知識を学ぶ
うつ病患者100万人を筆頭に、いま、精神疾患による患者数は400万人を超えている。 病状や対処法の情報が溢れている一方で、私たちはどこまで〈心の病〉のことを知っているのだろうか。 うつ病患者はなぜこんなにも増えたのか、統合失調症は治すことができるのか、依存症を断ち切る薬はないのだろうか。 現代精神医学の最新の知見を、臨床経験を踏まえた症例とともにわかりやすく説く一冊

 たとえば、職場のあり方に構造的な問題があって不適応者が生み出されている場合、そのような職場のあり方を改善しないまま回復した患者をそこへ戻すなら、早晩同じ問題が起きる可能性が高いだろう。また、本人の認知や行動のパターンに問題があって適応不全を起こしているとすれば、これを修正するような働きかけが必要になる。どのような型のうつであっても、薬を服用しながら休養すればとりあえず症状は改善するだろうが、その発症に社会事情や心理的原因が関与しているならば、それらを改善するアプローチを組み込んだ治療でなければ、真に有効な援助とはなり得ない。
 先に学んだ「外因・心因・内因」の概念を用いて言い換えるなら、DSM流に診断された現代のうつ病は、他の大多数の精神疾患と異なり、これら三つの原因領域のいずれからも起きうることになる。「うつ」ほど多様なものはない。DSMに依って「うつ」のラベルを貼り、抗うつ薬を処方することで終わりとせず、原因や背景に踏み込んだ治療や援助を実践しようとするなら、うつ病の臨床ぐらい気骨の折れるものはないのである。(第二章「うつ病 時代の病の虚像と実像」より)


❖目次
はじめに
第一章 精神疾患 現状と問題点
第二章 うつ病 時代の病の虚像と実像
第三章 統合失調症 「分裂病」と呼ばれた病
第四章 神経症とノイローゼ 不安の病理の昔と今
第五章 PTSDとヒステリー ストレス反応のさまざまな形
第六章 心身症と関連事項 こころとからだの相互作用
第七章 酒害とアルコール依存 依存という病
第八章 パーソナリティ障害 人がらを病むということ
第九章 歴史の中の精神疾患 人類史的意義と処遇の現実
第十章 治療論補遺 薬の効用・限界・活かし方
おわりに


石丸昌彦(いしまる・まさひこ)
1957年愛媛県出身。精神科医。東京大学法学部卒業後、東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学難治疾患研究所講師、桜美林大学助教授、教授を経て、放送大学教授。主な著書に『統合失調症とそのケア』(キリスト新聞社)、共訳書にフィリップ・G・ジャニカク『根拠にもとづく精神科薬物療法』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)などがある。
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