パレスチナ問題の展開

複雑にからみあった構造と最新の情勢がこの一冊でわかる。 第一人者による決定版。 パレスチナ問題とはなにか。 国際政治のダイナミズムのなかでの中東情勢の変化がわかる。 宗教、民族、石油をめぐる利害の交差による紛争と難民問題はいかにして起こったか。 ISやシリア内戦とはどう関係するのか。 また、ジョー・バイデン大統領就任までのアメリカの中東政策と バーニー・サンダースにみるようなパレスチナ問題への新しい波とはどのようなものか。 アメリカの中東政策も詳しく見ていく。


動かないものは何か。中東の動向を見る際のポイントである。つまり何が変わり、何が変わらないのか。変わらない構造を見つめつつ、変わる情勢にも目配りしたい。本書での著者の試みである。本書の母体となったのは、『第三世界の政治 パレスチナ問題の展開』(放送大学教育振興会、1992年)である。放送大学のラジオ科目のテキストとして準備した。その後に改訂版を2005年に出版した。1992年版から数えると、本書は第三版という計算になるのだろうか。時代の流れを反映すべく大幅な改訂を行った。これまでパレスチナ問題に関しては、いくつもの著作を発表してきた。これが、著者のパレスチナ理解の現段階での最新版である。
1990年代以来、変わらなかったのはイスラエルによる占領であり、変わったのはアメリカ・イスラエル関係である。変わったものと変わらなかったものの、意味を本書で考えたい。(「はじめに」より)


*ルビを多用。日本語が第一言語でない場合も対応
*中東全体の地図
*年表パレスチナ問題の歴史


パレスチナ問題の展開 目次

はじめに

第一章 パレスチナ問題以前のパレスチナ
五百周年/砲兵将校/逆三角形/シオニズムのネガティブ(陰画紙)/
ハジ・アミン・フセイニー/夢と悪夢

第二章 戦うユダヤ人国家
超大国のディレンマ/スターリンの選択/自由将校団/モスクワのディレンマ/スエズ危機/ノルマンディーの英雄/ナセリズム/六日戦争/生ける屍/イスラエル国防軍/東南アジアの「イスラエル」/
マサダの誓い/モサドの活躍/核/アメリカの援助/「蜃気楼」から「幽霊」へ/戦場から議場へ

第三章 アラブ世界の反撃
カラメの戦い/パレスチナ解放運動/PLO/パレスチナ国家/ユダヤ人とは?/ヨルダン内戦/ナセルの後継者/十四時〇五分/奇襲/六時間戦争/最後の手段/戦争による平和/核警戒体制/往復外交/石油危機

第四章 変わるイスラエル
カーター/ビギン、ベギン、ビーガン/「占領地」「解放地」「管理地域」/もう一つのシオニズム/三階建ての家/イスラエルのアラブ化/パレスチナとパレスチナ人/キャンプ・デービッドへの道/エジプト対アラブ連合/キャンプ・デービッド/最後のエジプト兵まで/ベイルートへ

第五章 レバノン戦争
統計という名の虚構/国の中の国/スフィンクスの計算/ファタハ・ランド/湾岸戦争のリハーサル/ヘルモン山の雪/サブラとシャティラ/サッダーム・フセイン/キャンプ・デービッドの果実/パレスチナ人の「発見」/選択としての戦争

第六章 ペレストロイカの影で
「世直し」/アリアー/アサド/PLOへの打撃

第七章 インティファーダ
ダビデとゴリアテ/「炎上」/大分県と奄美大島の半分/電話を待ちながら/ダビデの細胞分裂/「占領地都民」/真の「イスラエル」/パレスチナ解放運動の力学/アメリカ・PLO対話

第八章 湾岸戦争と中東和平
イスラエルの恩人フセイン/「リンケージ」/もう一つのパレスチナ問題/アラファト金脈

第九章 オスロへの道
アメリカのリンケージ/ユダヤ・ロビーの本音/戦略的資産/ゴルバチョフのプレゼント/ノルウェーの森、スカンジナビアの家具

第十章 ラビン/その栄光と暗殺
ネクタイを締められなかった男/エンテベの奇跡/ラビンのカム・バック/凶弾の思想/ペレス、ナンバー・ツーの悲劇/「エンジニアの死」/報復の報復/イスラエルのアラブ人

第十一章 ネタニヤフとバラク
ネタニヤフ一族/「ビービー・ゲート」/初めて公選された首相/神の贈り物/ネタニヤフの功罪/ピアノを弾く「ゴルゴ13」/ラビンの後継者

第十二章 スフィンクスの謎/シリアの故アサド大統領
アサドのプロフィール/党と軍へ/アニセ・マフルーフ/軍事委員会/孤高の電話魔/「ダマスカスのスフィンクス」/アラウィー派の支配体制/死人に口なし/時間との競争/眼科医の眼識/シリア内戦 /アサドスターンとクルディスターン/エルドアンの変心/計算できる敵

第十三章 シャロンとガザからの撤退
難民キャンプとキャンプ・デービッド/国境/入植地/エルサレム/水/難民の帰還権/第二次インティファーダとシャロン/キャンプ・デービッドの真実/シャロンの計算/不死鳥の死/分離壁とガザからの撤退/パレスチナの分裂/シリアの原子炉爆撃

第十四章 オバマ
凍結の凍結/Jストリート、イスラエルを批判するユダヤ・ロビー/
エネルギーシフト/「サウジ“アメリカ”」

第十五章 トランプ
エルサレムの首都認定/アラバマからエルサレムへ/進化論を否定する人々/ 福音派が選んだ大統領/ゴラン高原/イラン核合意からの離脱/人脈

第十六章 新しい波
バーニー・サンダース/人口動態―爆発してしまった時限爆弾/BDS/占領地ボイコット/変わってしまったアメリカ/サンダース・チルドレン/ガザの「虐殺」/パレスチナ系議員の誕生

第十七章 バイデンの中東政策
オバマ政権同窓会/軍事力の行使/中東政策/イラン/クルド民族/トルコ/イスラエルとパレスチナ/サウジアラビア批判


高橋和夫(たかはし・かずお)
放送大学名誉教授。福岡県北九州市生まれ、大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士、クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経て2018年4月より一般社団法人先端技術安全保障研究所会長。主な著書に『アラブとイスラエル』(講談社1992年)『イスラム国の野望』(幻冬舎、2015年)『世界の中の日本』(放送大学教育振興会、2015年)『中東から世界が崩れる』(NHK出版、2016年)『現代の国際政治』(放送大学教育振興会、2018年)『国際理解のために(改訂版)』(放送大学教育振興会、2019年)『中東の政治』(放送大学教育振興会、2020年3月)『最終決戦トランプVS民主主義―アメリカ大統領選挙撤退後も鍵を握るサンダース』(ワニブックス、2020年7月)など。
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