ハイデッガーの超越論的な思索の研究 『存在と時間』から無の形而上学へ

これは、彼が誰よりもカント主義者だった三年間の物語である。
注目のハイデッガー研究者、初の単著!

ハイデッガーは「存在の意味への問い」を、ほんとうに断念しなければならなかったのか。 本書では、『存在と時間』以降1929年までのテキストをとおして、「存在の意味への問い」が直面した困難と、彼がその解決のために試みた思索の道筋を追い、この問いをその全射程において明らかにすることを目指す。


ハイデッガーは、われわれの日常性が無意識的・社会的なさまざまなバイアスに徹底的に規定されていることを認めつつ、しかしながらそれでもそうした規定の下にあるわれわれの存在了解を、存在論の基礎とすることができるのではないかと考えた、ほとんど唯一の哲学者なのであり、それゆえ彼の「存在の意味への問い」は超越論的思索の歴史における一つの尖端である。(本文より)


目次
序論
  第一節 存在の意味への問いの内実と射程とを解釈するという課題
  第二節 ハイデッガーの超越論的な思索の道

第一部 『存在と時間』は何をどこまで明らかにしたのか
 第一章 『存在と時間』における超越論的問題設定について
  第三節 『存在と時間』は何をどこまで明らかにしたものであったのかという問いについて
  第四節 了解と事情
  第五節 日常性におけるわれわれは事情全体性の議論の成否を確認することができない
  第六節 死への先駆は企投の制限を取り払う
  第七節 決意性によってわれわれは行為を選択することができるようになる
  第八節 現象学的還元の改訂版としての先駆的決意性
 第二章 『存在と時間』における時間性論について
 A 時間性とは何か
  第九節 時間性を現存在の存在の意味として問うこと
  第十節 三つの脱自態はそれぞれ何から何へと抜け出ることなのか
  第十一節 自己性の二つの機能
 B 現存在の存在の意味が時間性であるとはどのようなことか
  第十二節 三つの脱自態のそれぞれの図式と、統一的な図式
  第十三節 『存在と時間』第六十九節(c)の解釈
  第十四節 存在者の三つの地平
  第十五節 現存在の存在の意味は三つの地平的図式の統一である

第二部 存在の意味への問いと有限性
 第三章 存在論的な学と有限性の問題
  第十六節 存在の意味への問いの方法、射程、中心的関心、困難と、その解決方針
  第十七節 先存在論的了解の徹底化
  第十八節 眼前性を手許性から解釈すること
  第十九節 有限性の問題
  第二十節 有限性の問題への接近方法としての超越の分析
 第四章 超越の問題の先鋭化
 A 「カント」講義
  第二十一節 二動機の先駆者としてのカント
  第二十二節 超越論的演繹に即して二動機の調停が目指される
 B 「ライプニッツ」講義
  第二十三節 メタ存在論への転換
  第二十四節 現存在は自然を超越する
  第二十五節 被投性に依拠した存在者論としてのメタ存在論
 第五章 超越論的な思索の道と存在論の存在者的基礎
  第二十六節 ハイデッガーのフッサールに対する距離を超越論性によって測る
  第二十七節 クロウエルの所説の概略
  第二十八節 それ自体で存在している存在者という意味
  第二十九節 ハイデッガーの超越論的観念論
  第三十節 メタ存在論は整合的な立場ではない

第三部 超越論的な思索と無の形而上学
 第六章 「哲学入門」講義と「根拠の本質について」とにおける超越の問題
  第三十一節 ハイデッガーの超越論的思索はどこにたどり着いたのか
 A 「哲学入門」講義におけるメタ存在論の帰趨
  第三十二節 「全体における存在者」と「存在者を存在者として全体において」
  第三十三節 学的世界観と神話的世界観
  第三十四節 観想と実践の区別に関するカントの教説
 B 「根拠の本質について」における超越の分析
  第三十五節 「哲学入門」講義と「根拠の本質について」との関係について
  第三十六節 超越の概念の形式的規定
  第三十七節 自由が根拠と関わる三つの仕方
  第三十八節 超越における、自己、手許のもの、眼前のものの開示
 第七章 無の形而上学
  第三十九節 「形而上学とは何か」を『カントと形而上学の問題』から解釈する
  第四十節 『純粋理性批判』の解釈における現存在の有限性と存在了解のアプリオリ性の関係の究明
  第四十一節 超越論的対象=Xに関するハイデッガーの見解
  第四十二節 『カント』書における無の概念
  第四十三節 無と超越
  第四十四節 無についてわれわれが語るときにわれわれが語ること

結論

文献表
索引


丸山文隆(まるやま・ふみたか)
東京大学大学院人文社会系研究科特任研究員、博士(文学)。近年は、ハイデッガー研究の成果を現代の形而上学や倫理学と接続させることを試みている。論文に「ハイデッガーの『存在と時間』に基づく生と死の理論」等。
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