パンデミックとアート 2020-2023

世界を一変させ、あれほどわたしたちを不安と恐怖、混乱に陥れたコロナ・パンデミック。
刻々と伝えられる感染拡大情報、政府や自治体から次々と発されるアラートや指針に右往左往した日々。
マスクをめぐる混乱、無観客で開催されたオリンピック、繰り返す感染拡大の波──。

20世紀初頭に起きた人類史上桁違いの災厄「スペイン風邪」を忘却していたことに思いを馳せ、
不可逆的に変容してゆく「日常」を見つめつつ書き継がれた美術批評家椹木野衣によるコロナ週報。
コロナ・パンデミックの恐慌が世界を襲った2020年3月から4年に渡る連載時評を書籍化。
「忘却」に抗い、遠からずまた訪れる「反復」に備えるために──。



 このこと[=スペイン風邪のパンデミックがほとんど論じられてこなかったこと]は、西欧の文明がとりわけ近代以降、過去を踏まえた礎のうえに築かれ今日に至るという通念に、なにがしかの疑念をもたらす。わずか100年たらずの過去に起きたこれほどの出来事の記憶が、人類的な規模で集合的に失われていたのだとしたら、わたしたちはいったいなにを手掛かりに未来を切り開いていけばよいのだろう。新型コロナウイルスによる瞬く間のパンデミックは、途切れていたその記憶をふいに揺り戻した。もしかしたらわたしたちは、文明の進歩そのものを根幹から見直す必要があるのかもしれない。

──欧米も「悪い場所」かもしれない 2020年5月8日、より
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