老いの心の十二章

高齢社会を迎えたいま、必要なことは、老いを否定することでも管理することでもない。老いとはいかなるものなのか、さまざまな切り口で老いの姿、老年期の心性を語る、老いを生きるための1冊。



「多様な視点を与えてくれることで老いへの目を開かせてくれる快著」——和田秀樹


高齢社会になって老いを生きる姿は多様化したが、社会はそれに対応できているだろうか。「老人問題」という言葉にその答えを見出すことができる。老人問題とは国や自治体の財政の論議の中心的なテーマであり、老人医療費や年金問題、介護のシステムや家族問題として必ず取り上げられる。具体的には医療費や社会保障予算、増え続ける高齢者世帯、介護システム、スタッフの育成、若い世代の負担などとの関連で。老人問題とは次世代にとっての問題ということである。この議論には当の高齢者がどんな思いで生きているか、老いを生きるとはどういうことかが抜けている。高齢者は高齢社会の主人公ではなく、お荷物(問題)として管理される対象になっている。
(中略)
十数年の老年精神科臨床にたずさわった経験から、高齢者がどんな状況に置かれているか、それがどんな意味を持つか、どう受け止めているかを考える必要性を痛感した。精神症状には老いをめぐる問題が凝縮されて現われている。そこには老いを生きることの不安、人間関係の葛藤、自らの喪失体験にともなう心理的問題など、彼(彼女)がこれまでをどう生きてきたかが映し出され、現実の生活状況や家族関係が照らし出される。それだけでなく家族やかかわるものたちの人間像まで浮き彫りにする。主眼は病気を知ることではなく、「ひと」を考えることにある。(「まえがき」より)


[目次]
まえがき
第1章  高齢社会と「老い」
第2章  老年期心性と喪失体験
第3章  老年期の孤独・孤立
第4章  死の現前化
第5章  適応
第6章  パーソナリティー
第7章  知能と感覚
第8章  痴呆とせん妄
第9章  妄想
第10章  抑うつとうつ病
第11章  神経症
第12章  人格障害
参考文献



たけなか・ほしろう=老年精神医学。
主な著書に『老いの心の臨床』(みすず書房)、『高齢者の孤独と豊かさ』(NHKブックス)、『高齢者の喪失体験と再生』(青灯社)など。
型番 978-4-903500-48-5
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